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目次
- はじめに
- A. なぜ、発展できたのか?
- B. 格差が、なぜ生まれたのか(なぜ、今、このような世界になっているのか)
- 1. 地理的要因
- 2. 制度的要因
- ・私有財産
- ・科学的合理主義
- ・近代資本主義
- ・インフラ(通信手段、輸送手段)
- 3. 政治的要因
- C. なぜ、文明は、崩壊するのか?
- D. 時系列で発展を見る
- a. 認知革命/狩猟時代
- b. 地理的要因
- c. 農業革命
- ・コラム①:「経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える」(本)と議論する
- d. 制度要因・政治体制要因
- ・コラム②:交換/交流から始まる加速
- e. 産業革命
- ・コラム③:私たちは、なぜ、体育が、週5で授業をしなかったのか?
- f. 包括的な政治制度への変化 〜日本の高度経済成長を例に見る〜
- g. 情報革命
- ・コラム④:技術と産業のフェーズ
- h. AI, IoT革命
- ・コラム⑤:大学教育で、何を鍛えるべきか?
- i. ブロックチェーン革命
- j. GNR革命
- 終わりに:若者の私たちは、どんな未来をつくっていくのか
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前回の連載では、農業が人類を前進させ、人類の本能や進化スピードで対応できる集団規模を超えること(人口増加)にもなった。都市の形成と政治の制度の重要性が上がった。18世紀以前までは、マルサスの罠が起こるとされていたが、以降どう克服したのかを見ます。
産業革命をもとに、克服の理由を述べられることが多いですが、今回は、別の視点の制度をピックアップして、書いてみようと思います。
今回は、軽工業や重工業の産業の発展を支えた、日本の戦前・戦後の体制とを見て、制度と産業の発展の繋がりについて、考えます。
ただ、今回の文章は、『1940年体制 – 野口 悠紀雄 (著)』の内容を中心に書いているので、発展を支えた日本の制度が、もう限界にきてるといったような主張になっているのですが、逆に言うと、これまでは、「機能していたのか」と考えながら、読んで欲しいです。
d. 制度要因・政治体制要因
1940年頃の戦時経済体制のなかで導入された制度や仕組みが戦後も残り、高度成長を実現した。そして、現在もそれらのほとんどが残っています。
これを「1940年体制」と呼んでいます。
経済や財政、土地や教育、企業の形など、あらゆるものに「1940年体制」が及んでいます。たとえば現在の日本の金融の仕組みは、銀行が融資をする間接金融が中心で、これは昔からそうだったと言う人がいます。
しかし、そんなことはないです。
少なくとも 1930 年頃までの日本では、 直接金融が中心でした。それが戦時経済体制中、軍事産業に資金を集中させるために、まさに40年頃、政府のイニシアチブにより間接金融へと変わったのです。
それがそのまま戦後も残され、今に至っています。これは、株主をほとんど意識しない状態であることを意味しています。
また、財政、すなわち租税の仕組みは、昭和15(1940)年の税制改革で直接税から間接税に変わり、また、このときに法人税が新生され、源泉徴収制度が導入されました。
しかし、その後は、88年に消費税法が成立し導入された以外は、ほとんど何も変わっていません。
この制度は、現在も続いているのか?
金融の仕組みに限って言えば、80年代後半のバブル経済から90年代の金融危機によって表面的には変わりました。
しかし、それ以外については変わっていません。特に企業の仕組みは変わっておらず、株主を重視せず、経営者は内部昇進による、といった閉鎖的な仕組みがそのまま残っています。
日本経済の資金循環の仕組み自体が変わってきていると言えます。高度成長時代は、企業は資金不足部門でしたので、家計の貯蓄分を回すことが重要でした。
しかし、その構造は変化し、現在は企業も貯蓄過剰部門となっています。この結果、特に、大企業に言えることですが、銀行の融資に依存することが少なくなってきました。
つまり、なぜバブルが生じたかということにも関わってきますが、 企業のISバランスの変化によって、80年代から大企業の銀行離れは始まっていたのです。
一方で家計貯蓄が銀行に集まってくる状態には変化がなかったです。その結果、銀行は資金運用難に陥ってしまったのです。そこで不動産融資に活路を見出そうと、異常なほどの不動産投資を行いました。
それがバブル経済だったのです。
すなわちバブル経済は、40年体制を無理矢理維持しようとしたがために起きてしまったのです。そして、バブル崩壊によって、結果的に戦後続いた金融の仕組みが変わらざるをえなかったのです。
企業に関しては、いまだに「1940年体制」のままであるというご指摘でした。
本来、市場経済ではありえないことですが、日本の大企業は未だに閉鎖的で、よそ者を排除する体質が残っています。
その一方で、もたれあいの関係も顕著に見られます。
日本企業の閉鎖的な状況は高度成長時代からずっと続いています。その間、グループや系列が形成され、株式の持ち合いが行われるようになりました。これは事実上浮動株がなくなる事態で、株主がいない状態を指します。
たとえば、米国ヒューレットパッカードでは、カーリー・フィオリーナ氏が株価の不調が原因で事実上更迭されました。企業の判断は株価の推移によって行われるからです。それは資本主義経済では当たり前なのに、日本企業はそうなっていません。大きな変化に対応できない体質になっているとも言えます。
高度成長期のように経済が順調に発展できる客観的な条件があれば、それでも問題ないのですが、90 年代以降、世界が大きく変化している状況下においては、その変化についていかなければなりません。
現在、日本を始め、20世紀の産業大国と言われた国々が対応できていないのです。
「経済システムが、条件の変化に対応していない」ことが基本的な問題と考えています。 「条件の変化」としては,次の2点が重要です。
(1) アジア諸国、とくに中国の工業化
製造業の輸出産業に負うところが大きい。 それを、アジア諸国、とくに中国が同じことを始めたことが重要な意味をもっています。
最近までは、我々の生活にそれほどの影響はなかった。日本製品との競争にはならなかったが、中国製品の品質がここ数年急激に良くなってきた。中国には、日本の10 倍の労働力があるので、同じことをやっていては(日本は)競争に勝てないです。
(2)ITの登場
ITの登場により、大企業の有利性が明らかに減退し、情報処理と通信に関しては差が無くなりました。大企業中心の経済体制から、中小企業、個人中心のものになるべき時代が来ました。
(歴史をたどると)、産業革命が起こった時、動力を使った工場での集中、大企業中心の経済体制に世の中が(それまでの大航海時代から)変わった。
ここまで、長くなってしまってしまいましたが、重工業(化学・物理学)の産業を勃興させるために、作った制度が、現代の文脈に合っているのか?という問題提起で終わってしまいました。
しかし、今回、大事にして欲しいのは、『政治が作り出す制度/経済システムが、産業/企業の発展に繋がる』ということです。
欧米より、技術や産業の発展が遅くて、市場に参入された場合、日本の産業は発展することができたのかは、怪しいと思います。
1990年代までの中国といい、自国の産業を育てるまでは、基本的には、閉鎖的・政府主導型の体制が多いように思います。
そして、「制度」を広く捉えて、国や企業の経済システム(経営)を知り、どこに、自分の身を置くのかを考えることは大事なのかもしれません。
-続く
【引用・参考図書】
・歴史
1. 経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える – ダニエル・コーエン(著)
2. FACTFULNESS(ファクトフルネス)――1の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣 – ハンス・ロスリング, オーラ・ロスリング他(著)
3. 繁栄――明日を切り拓くための人類10万年史 – マット・リドレー, 大田直子他(著)
4. 銃・病原菌・鉄――1万3000年にわたる人類史の謎 – ジャレド・ダイアモンド(著)
5. 文明崩壊――滅亡と存続の命運を分けるもの – ジャレド・ダイアモンド(著)
6. 世界全史 – 宮崎 正勝(著)
7. 国家はなぜ衰退するのかーー権力・繁栄・貧困の起源 – ダロン アセモグル, ジェイムズ A ロビンソン他(著)
8. 「豊かさ」の誕生――成長と発展の文明史 – ウィリアム・バーンスタイン、徳川家広(著)
9. サピエンス全史――文明の構造と人類の幸福 – ユヴァル・ノア・ハラリ(著)
・制度/経済システム
10. 1940年体制 – 野口 悠紀雄 (著)
11. 戦後日本経済史 – 野口悠紀雄 (著)
12. 現代日本経済システムの源流 (シリーズ現代経済研究) – 岡崎 哲二 (編集), 奥野 正寛 (編集)
13. 経済システムの比較制度分析 – 青木 昌彦 (著), 奥野 正寛 (著)
14. 比較制度分析に向けて – 青木昌彦 (著), 瀧澤 弘和 (翻訳), 谷口 和弘 (翻訳)
・資本主義/経済
15. 経済成長という呪い – ダニエル コーエン(著)
16. 資本主義の終焉と歴史の危機 – 水野和夫(著)
17. 人工知能は資本主義を終焉させるかーー経済的特異点と社会的特異点 – 齊藤元章, 井上智洋(著)
18. ポスト資本主義――科学・人間・社会の未来 – 広井良典(著)
19. 資本主義という謎――成長なき時代」をどう生きるか – 水野和夫, 大澤真幸(著)
20. 人工知能と経済の未来――2030年雇用大崩壊 – 井上智洋(著)
・シンギュラリティ
21. シンギュラリティは近いーー人類が生命を超越するとき – レイ・カーツワイル(著)
22. 2045年問題――コンピュータが人類を超える日 – 松田卓也(著)
・未来考察
23. ホモ・デウスーーテクノロジーとサピエンスの未来 – ユヴァル・ノア・ハラリ(著)
24. ワーク・シフトーー孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉 – リンダ・グラットン, 池村千秋(著)
25. アフターデジタルーーオフラインのない時代に生き残る – 藤井保文, 尾原和啓(著)
26. 第五の権力――Googleには見えている未来 – エリック・シュミット, ジャレッド・コーエン他(著)
・情報革命以後
27. 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0 – 総務省|令和元年版 情報通信白書|PDF版
28. IT全史 情報技術の250年を読む – 中野明 (著)
29. インフォメーション―情報技術の人類史 – ジェイムズ グリック (著), James Gleick (原著), 楡井 浩一 (翻訳)